向かった鍛冶屋の扉には、既に今日の営業が終わったことを示す看板がぶら下がっていた。アクトがそれを遠目に確認する。目を伏せてその場を離れようとすると、横からアクトを呼ぶ声が聞こえた。
「任務は片付いたのか?」 「……っ、なんであんたがここにいるんだ?あいつの監視を任せたはずだろ」
代役を頼んだはずのカスガが店の外にいる事に驚き、アクトが険しい表情になる。カスガは考え込むような仕草をして、アクトを見返した。
「……ふむ。てっきり任務を終えて交代に来たかと思ったが。違ったのなら自分は戻ろう」
返事を待たずに歩きはじめたカスガを、アクトが止める。
「ちょっと待て。……俺が行く」
言ってしまったからには顔を出すしかない。アクトは仕方ない事と自分に言い聞かせ扉を押し開いた。扉の先にいた人物と目が合う。アキは呆然と立ち尽くしていたかと思うと、カウンターを飛び出してアクトに駆け寄ってきた。
「アクトさん!大丈夫ですか!?」
アキが心配そうな顔をする理由がわからず、アクトが聞き返す。
「大丈夫って、何が?」 「体調が悪いとか、どこか怪我したとかじゃ……・ないんですか?」
そう言いながら、アクトが普段と変わらない事に気がつくと、アキの目は不審な物を見るかのような目つきに変わった。
「別に。問題ない」 「なんだ……もう、心配させないでください」 「一体何を心配してたんだよ?」
一人で慌てたり怒ったりするアキに笑いを洩らすと、アキは途端に顔をしかめる。
「突然今日は来られないって聞いて。カスガさんに聞いてもなんでもないって言うだけで、私、アクトさんに何かあったのかと……それなのに……」
次第にアキの表情が歪み、瞳が潤みだした。アクトは慌ててアキの肩に手をやり俯こうとする顔を覗き込んだ。
「何もあるわけないだろ。他の仕事が入っただけだ」 「他の、仕事が?」 「ああ。当然知ってるもんだと……人選を間違えたか」
最後は小さく呟き、アクトが舌打ちをする。アキが不思議そうな視線を送ってきたので、アクトは咳払いをした。
「とにかく。今日この後はこっちいられるし。代わりを頼んだ分は俺が来る事になるから。……安心しろ」
視線をそらしたまま言う。アクトはアキの頭をポンポンと撫でてから、勝手に2階へ歩みを進めた。アキが後ろをついてくる足音が聞こえていた。
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