「そんなに触りたいなら、触りたいって言えばいいじゃない」
ほら、とアキが胸元に抱え込んでいた小動物を差し出す。混じりけのない白い毛はきれいに整えられ、ふさふさとさわり心地が良さそうだ。隙間から緑色の二つの玉が覗き、アクトを見上げる。しばらくそれを眺めて、アクトは視線をそらした。アキが不思議そうに声をあげる。
「あれ、違った?すごく視線を感じたから、触りたいのかと思ったのよね」
じゃあ、と言ってアキが再びコロを抱きかかえる。もちろんアクトに小動物を愛でる習慣はない。アキがコロを触る時にする体の芯ごととろけてしまったのではないかと思うほど気の抜けふにゃりとした顔。まさしく今しているその顔を、そんなに気持ちのいいものかと呆れて見ていただけだ。
「やっぱり見られてる、よね?」
視線に気がついたアキが、恐る恐るアクトを振り返る。
「コロじゃないなら何?」 「自分の顔、鏡で見た方がいいんじゃないの」 「どういう」
意味よ、と続いたであろう言葉が完全に途切れる。アキが気の抜けた顔を警戒でこわばらせるよりも早く、アクトはアキの胴体を引きよせて拘束していた。アクトの肩のあたりで、アキが何か言おうか言うまいかと口を動かし、漏れた息がかかる。
「触って良いって?」 「私じゃなくてコロをね!」 「コロだろ」 「私も巻き込まれてるの!」 「ま、悪くないさわり心地」 「違う!それ私の髪!」 「見りゃわかる」
アクトの正面ではうろたえるアキと、口の端を上げ満足そうな顔をする男が窓ガラスに映っていた。
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