Happy Valentine's Day 2010

ありがとうを言いに来た (タカミ×アキ) 10.02.21
柄にもないこと (クラト×アキ) 10.02.14

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   タカミ×アキ




手元の袋から指に当たった一つをつまんで口の中へ放り込んだ。ざくざくと噛みがいのある音を楽しむとまた袋へ手を入れる。アキの作るお菓子は他所の食べ物のようにいちいち毒見をする必要がないから楽だ。それだから好きなのだと思っていたけれど、ご飯にしろ剣にしろアキが作るものは不思議と人をホッとさせる力をひめているようだから、本当はそう言うところが好きなのかもしれない。

「なに?」

先程から送られている視線には気が付いていた。相手もそれはわかっているはずなのに、おや、と驚いて見せてからいつもの愛想の良い顔になる。

「気が付かれていましたか」
「当然でしょ。何か用?」
「いえ。仲が良くて羨ましいなと思いながら見ていただけですよ」
「何が?」
「そのクッキーはアキさんからもらったんでしょう?」
「そうだけど」

視線を合わせお互いに目を瞬いた。ヒノカが今度こそ本当に驚いた顔をし、こちらはそれ以上に眉を寄せる。

「もしかして今日がどういう日だか知りませんか?」
「うん。何かあるの?」



すっかり日が落ちていたけれど、この時期は暗くなるのが早いので当てにならない。壁時計で時間を確かめてから営業中の看板を外した。室内に戻り扉を閉めようとする。閉まりかける戸の隙間を何者かが猛スピードで走り抜けた。風を受けて髪がふわりと揺れる。いた、と侵入者の呟く声が聞こえ、何が起きたのかを理解した。

「危ないよ、タカミ」

呼びかけて体の向きを変えようとする。ところが、後ろから覆いかぶさってきた何かの重みによって思うように体の向きを変える事ができない。肩口では自分の物でない腕が交差していた。

「さっきくれたのって、普通のと違うの?」
「普通のと違うって?」
「年に1回の特別な贈り物?」

不服そうに呟かれる言葉を何とか聞きとり、昼過ぎのやりとりを思い返す。タカミが言っているのは、今日は一応そう言う日であるから、と渡した菓子の事だろうと思った。

「うん。そうだよ」
「何で言ってくれないのさ。いつもと同じだと思って気付かなかったんだけど」

やっぱり気付いていなかった、と笑みを漏らす。タカミがそう言う日を知らない可能性は有ると思っていたし、渡した時の反応からしてそんな気はしていた。ただ、普段からしている事を大げさに言う必要もないと思って黙っていたのだ。

「それを確かめるために走って来たの?」
「……アキに会いたくなったから」
「昼間も会ったよね」
「そうじゃないよ」

肩にかかる重みが消え、緩んだ腕が今度はお腹の辺りを捕えた。首を動かしてようやくタカミの表情を見る事ができる。タカミは目をつむって心地よさそうにしていた。

「お返し期待してるね」

タカミが首を傾げ、唐突に顔を近づけてくる。こめかみに触れた柔らかい感触がじわじわと頬に熱を持たせた。

「お返しは別の日に、女の子が喜びそうな物を用意するの」
「今日じゃないの?」
「うん。説明するから、腕、離して」
「やだ」


( ありがとうを言いに来た / 10.02.21 / clap



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   クラト×アキ



「そこでミトシとすれ違った」

出来るだけ普段通りを意識して声をかける。お茶を置こうと伸ばされていた腕の動きが止まり、こちらを向いたアキと目が合った。アキは何かを思いついたように頷く。不自然さは悟られずにすんだようだった。

「さっきまで家に来ていたんですよ」
「何か用でもあったの?」

たずねると、アキが頬を緩めて嬉しそうな顔になる。可愛らしい桃色の包みを持ち上げ大事そうに両手に乗せた。甘い香りがクラトの鼻に届く。

「もらっちゃいました。ミトシ君の手作りお菓子」
「へえ」

昨日の深夜、こそこそと食堂へ向かうミトシを見かけた事を思い出しひとり納得していると、横からくすくすと笑う声が聞こえてきた。何事かと首をかしげると、アキは視線を泳がせ言いにくそうに肩をすくめる。

「クラトさんはそう言うの認めないって言うタイプかなと思ったらつい」
「いや、そんな事は」

ない、とは言い切れなかった。実のところ、今日という日は一般的に女性から男性へ贈り物をするのが正解だと今でも思っている。自分やミトシにそんな話を持ってきた一応の先輩からは頭が固いだのなんだのと散々言われたけれど、やはりクラトにはミトシのように器用な真似はできなかったのだ。

「……気に障りました?」

横を見ると、いつの間にかアキが隣で姿勢を正して座っていた。どうしてこんな空気にしてくれたのかと頭を抱えていたけれど、気に障ったと言うのとは違う。俯き加減で時折こちらを見上げてくる様子を見ていたら、うっかりその頭に手を置きたくなってきてしまった。ひとつ息を吐き、手を置くかわりに隠し持っていたそれを差し出した。両手で受け止めたアキは、おそらく思考より先に体が動いただけのようで、手に置かれた物とクラトの顔とで視線を行ったり来たりさせている。しばらくして、慌てた声を上げた。

「これって……。えっと、……え?」
「アキが俺の事どういう風に思ってるかよくわかった」
「そう言うつもりじゃなかったんです。まさかクラトさんがこんな事してくれるなんて絶対にないと思ってたから」
「ふーん?」

アキの目をしっかりと見てから不貞腐れたように顔を背けてみる。アキは弁明の言葉を探してより一層あたふたとした。

「……ごめんなさい」

しゅんと肩を落とすのを見ると今度こそ腕が伸びてしまった。笑いをこらえるのが限界だったと言うのもあるし、それだけではないと言う自覚もある。

「怒ってないよ。ミトシみたいに手作りじゃないしな」
「そんな、関係ないです。嬉しいです」
「そう。それなら良かった」



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