アクトは普段からあまり喋る方ではなかったが、それに比べても今日のアクトは無口だった。アキが話しかけても気のない返事が返ってくるだけだ。迎えに来た時は今のような雰囲気ではなかったので、その後の何かがアクトをこうしてしまったのだろうと思いながら、アキは原因をわからずにいた。アクトはベッドを背もたれにして床に座り込んでいる。アキも少し間をあけて隣に腰をおろした。すると、アクトがアキとの距離を一気につめ、ベッドの縁に両手をつく。アキはその間の狭い空間に囲われ、すぐ近くにあるアクトの顔を呆然と眺めるしかなかった。
「アイツにやったのか?」 「な……何を?」
変わらぬ体勢のまま投げられた言葉になんとか返事をすると、アクトが不機嫌そう に言う。
「ひとつしかないだろ」
まっすぐにアキの目を見る視線を避けるため、アキは顔をそらしながら今日の出来事を振り返った。誰かに何かをあげた、と言うのに当てはまるのは、タカミにチョコレートをあげたと言うことくらいだ。
「チョコなら、あげましたけど。タカミに」 「なんで?」 「友達だからです」
アクトは少し考えてから、確かめるように言う。
「つまり、義理ってことだろ?」 「義理じゃないです。ううん、だからって本命って事でもなくて、そうじゃなくて…… 友チョコ
。そう、友チョコなの」 「どう違うんだよ」
「義理って言うと、仕方なくあげてるみたいでしょ?友達として、いつもありがとうって想いをこめ」
わからない、と眉をしかめるアクトに、アキが説明をし終わる前に、アキの視界が真っ暗になった。アキは言葉を続けることができず、何がおこったのかわからないまま、気がついた時には不自然に乱れた呼吸を整えるので精一杯になっていた。
「……で?なんだって?」 「なっ……な……何……」 「なんだよ?聞こえない」
素知らぬ顔をするアクトの胸を両腕で押し返し、アキは顔を真っ赤にして言い返す。
「聞こえない、じゃ、ないです!」
懸命にそれだけ口にすると、アクトは少しも悪びれず、吹き出して笑い始めた。
「私、怒ってるんですよ!」
自分で押しやったアクトに詰め寄るうちに、今度はアキが顔を近づけていたが、アキはそれどころではなく、アクトも動じていない。
「うるさいな。そんな事より、俺の分はないのかよ?」 「……ありますよ」
すっかり調子を狂わされ、アキは渋い顔をする。荷物を手繰り寄せ、アクトの目も見ずに紙袋を胸へ押しつけた。アクトは片手でそれを受け取り、中身をちらりと見る。
「友チョコってやつ?」 「違います」
じゃあ何だ、といたずらっぽく笑うアクトに答えるのが恥ずかしくなり、アキはアクトがそうしたように、アクトの口をふさいだ。アクトのように上手くいかず、我に返って体を離そうとする。ところが、知らぬ間に背中へ回された腕がしっかりとアキを固定しており、結局アクトが満足するまで離されることはなかった。
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